いよいよ寒い季節も深まり、コートやジャケットが必要になる時期となりました。我が家の愛犬にとっては、夏の気だるい季節よりも冬の寒い季節の方が気分がアゲアゲになるようです。
さて、今回のブログのテーマ「クレームから書くか、明細書から書くか」、これやってみたいと思います。
最初に予防線を張っておきますが、どちらが正解ということはない、ということを申し上げておきたいと思います。どちら派であるにしろ、自分はこちらの方が書きやすいという特性もありますし、どちらの方が特許査定になりやすいとかそんなデータもないでしょうから、得意な書き方(もちろん顧客満足度を得られることが前提で)が書けばよいのだと思います。どちらの書き方が良い悪いではなく、いずれの書き方の方々にも敬意を払いたいと思います。筆者が属する事務所においても、どちらの書き方をする人もそれぞれいらっしゃいます。ただし、このテーマを書く以上、筆者が思っている意見は書かせていただきたいと思います。まず、「特許請求の範囲」「請求項」「クレーム」いろいろとありますが、ここでは「クレーム」と表現し、「明細書」「実施形態」「実施例」いろいろとありますが、ここでは、「明細書」と表現したいと思います。
さて、筆者自身としては、どちらから書く派なのかというと、ずばり「明細書から」です。
クレームから書く派の方々の意見としては、例えば、以下のようなものがありました。
(1)明細書を先に書いたうえで明細書の文言でクレームを書くのは困難なことが多い。
(2)明細書を先に書くと、クレームを書いたときに表現が異なると、大幅に修正することになる。明細書から書くと、高い確率でクレームとのずれが出てきて書き直す羽目になる。
(3)明細書から書くと時間がかかったり、量が多くなる。
というような、意見が散見されました。
筆者の場合、「明細書から」書くと言いましたが、それは以下の前提があります。
まず、「明細書」を書く前に、以下のことを行っています。
①発明者の原稿から、その発明のポイント(背景技術・先行技術、課題、効果)を理解する。
②図面の構成(原稿)を考える
課題・効果を理解するという時点で、【請求項1】に盛り込まなければならない構成の青写真はある程度出来上がっています。また、図面の構成(原稿)を作成した時点で、明細書のストーリーが頭の中で既に出来上がっています。
このような「明細書から」書く派の筆者個人の意見を申し上げたいと思います。
まず、「(1)明細書を先に書いたうえで明細書の文言でクレームを書くのは困難なことが多い。」についてですが、これは、上記の①の作業をせずに、やみくもに明細書から書き始めた場合のことのように思います。①の作業をしておけば、既に頭の中にクレームで書かなければならない構成要件、動作の輪郭が大体出来上がっていますので、その輪郭を意識して、明細書でも表現していきます。したがって、筆者の場合は、明細書の文言でクレームを書くのは困難と感じることはあまりなく、どちらかというと、明細書で表現した記載を抽出して、クレームを作成していきます。
次に、「(2)明細書を先に書くと、クレームを書いたときに表現が異なると、大幅に修正することになる。明細書から書くと、高い確率でクレームとのずれが出てきて書き直す羽目になる。」についてですが、上記したように、①、②の作業をせずに、やみくもに明細書を書き始めてしまった場合のことではないかなと感じます。常に「課題を解決することが可能な【請求項1】」を意識していけば、先に記載している明細書の表現が、後で書くクレームの表現と乖離することはあまりないように感じます。また、後で作成したクレームの表現と、明細書の記載と齟齬が生じたとしても、上記の①、②を前提としていれば、齟齬する部分を明細書でサポートしたり、修正したりすることに、ほとんど負担感はありません。
最後に、「(3)明細書から書くと時間がかかったり、量が多くなる。」についてですが、これも同じように、①、②の作業をしていない場合のことであるように思います。②の作業をすることによって、既にストーリーが頭の中で組まれているので、思いつきで関係のないことを書いてしまうという事態はなくなります。また、①の作業をすることによって、発明のポイントが押さえらえており、「課題を解決することが可能な【請求項1】」をサポートするような明細書の書き方になりますので、発明のポイントから逸脱したような内容を厚く書いてしまう、という事態もなくなります。したがって、①によりサポートすべき記載内容の輪郭ができており、②により”あらすじ”が出来上がっているため、時間がかかったり、量が多くなるということはあまりないように個人的には感じます。
ここで、筆者が、特に「明細書から」書くことにしている理由、について書かせていただきます。「本日よりブログを始めました!まずはひとことごあいさつ。」で書かせていただいたように、明細書を800~900件を作成してきた経験の中で感じている間違いのない一つの真実があります。
それは、「明細書を書く過程で、その発明の内容が整理され理解度が高まる」ということです。
発明者が作成した原稿を読んで、分かったつもりになっていた発明の内容が、明細書を書く過程で、その理解が誤っていたり、理解が不十分であることに気付かされることが往々にしてあります。「日記を書くと、ごちゃごちゃになった心が整理される」というのと同じです。その観点から考えると、明細書を先に作成してクレームを後に作成する、ことの方が、筆者自身にとっては、発明者の意向を反映した精度の高いクレームを作成するために理に適った順番なのです。
また、これを書くと、「クレームから」書くというかたの反論を受けるかもしれませんが、クレームを先に書くと、そのクレームに応じてサポート要件を満たすような内容を書いていくことになるかと思われます。そうすると、それが故に、サポート要件を満たすためだけの記載になって記載量も不足してしまうのでは、という懸念が筆者としては想像されます。そうすると、拒絶理由通知を受けて補正をする段階で、特許性を具備するための明細書における”材料”が不足してしまうことがあるように感じます。もちろん、発明のポイントとはずれた技術内容で補正して特許査定を受けたところで、特許権としてどれだけ活用できるのか、という意見もあろうかとは思います。ただ、「明細書から」書く場合では、そのような「既成のクレーム」への縛りがない分、表現と内容にバリエーションが出てくるようにも感じます。もちろん、これは筆者自身の感想を述べているだけで、そのようなデータ的エビデンスがあるわけでもありませんので、「クレームから」書く場合でも充実した明細書を書かれるかたも当然いらっしゃいます。
以上が、弁理士である筆者の「クレームから書くか、明細書から書くか」に対する一意見です。賛否両論はあるかと思いますが、今後もこの業界ではこのテーマは語られていくのかもしれませんね。