巷で「国際特許」「世界特許」とか、「国際特許取得済み」などのうたい文句を見たことはないでしょうか?私が通っていた歯科医院の待合室に、某美容関係の広告ポスターで「国際特許取得済み」というような文言を見たことが実際にあります。
 この言葉に触れた皆さんはどのようなイメージを持つでしょうか。少なくとも私が何ら知財の知識もない一般の消費者の立場であれば、「世界的に有効な特許を取得した商品なのか!」と思うと思います。

 このような表記の意図がどのようなものにしろ、弁理士の立場としては控えた方がよいと思っています。なぜなら、「世界的に有効な特許」という概念がそもそもないからです。
 特許というのは取得したい各国で別々に取得する必要があります。特許制度を規定した法律が「特許法」ですが、「属地主義」(法律の効力がその国の国内でのみ有効であるということ)の原則から、特許法で取得が認められる「特許権」は我が国日本でしか効力がありません。日本で特許権を取得した者が、アメリカで同じ特許製品を製造・販売している者に対して、差止請求などの権利行使を行うことはできません。日本の特許権はアメリカでは効力がないからです。したがって、アメリカでも権利行使できるようにするためには「アメリカの特許権」を取得する必要があるのです。

 つまり、特許権というのは各国で取得しなければならないものであり、「世界的に通用する1つの特許権」というものはありません。それなのに「国際特許」「世界特許」という文言を目にすると、そのような特許権が存在するかのような誤解を与える可能性が高いため、使用することは控えた方がいいと思います。

国際特許と世界特許

 ここで、「いやいやPCTの”国際特許出願”があるじゃないか!」という声があるかもしれませんが、PCTの国際特許出願は、「世界的に通用する1つの特許権を取得するための手続」ではなく、「”各国に特許出願”をするための手間を削減するための国際的な手続」のことです。各国個別に特許出願をしていくのは言語的・コスト的・時間的な負担が大きいため、このような手続の負担を削減して各国で特許を取得しやすくするために、PCTという国際条約が制定されました。
 かつて人類は理想的な「世界特許法」なるものを作り上げて「世界特許権」というもので技術を保護しようと試みましたが、各国の特許法の構成も異なり、利害の対立などもあったため、「世界特許法」の制定は断念され、代わりに、各国の特許法の間で調整をすることができる「パリ条約」(これから派生してPCTが生まれます)が制定されました。

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